横浜市鶴見区に2009年4月、理数科に特化した新設校として市立横浜サイエンスフロンティア高校が誕生した。まだ1、2年生しかいない校舎には実験室が20室もあり、大学顔負けの機器もそろう。最高にぜいたくな環境で、科学の魅力を伝える工夫を凝らした授業が続いている。
一番の売り物は1、2年生必修の「サイエンスリテラシー」。週1回、他校なら2コマ分に相当する95分間で、同校の科学技術顧問になっている大学や企業から研究者が来て最新の話題を紹介する。日産自動車が燃料電池車を持ち込み、生徒を乗せて校舎の周辺を走らせたこともある。
6月、1年生の授業に横浜市立大の橘勝教授が登場した。専門はナノテクノロジー。セミナー室で物理化学の歴史について聞いた後、生徒たちは実験室に移動してサッカーボール状の炭素結晶「フラーレン」と、卵白に多く含まれるたんぱく質「リゾチーム」の再結晶化実験に取り組んだ。
橘教授は「実験は、想定通りの結果がでなくても失敗とは限らない。途中のプロセスこそが面白い、という科学の魅力を伝えたい」と話す。
「これは壮大な実験。公立がエリート教育に回るのかという批判は甘んじて受ける」と話す和田昭允(あきよし)・東京大名誉教授は、横浜サイエンスフロンティア高校の常任スーパーアドバイザーだ。
東大理学部長などを歴任した生物物理学の第一人者として、開校前の理念づくりから深くかかわり、若手研究者が育たない日本の現状への危機感から理系の英才教育を提案した。校名に「サイエンス」を明記することも強く主張した。
科学は単なる知識ではなく、本質を見極めようと考えることだ、と和田さんはいう。「なのに、大学でも教養課程は知識の詰め込みに終始する。高校から考える訓練を始めた子たちが、日本の科学界をきっと変えてくれる」
今は週1回、放課後に1年生を集めて開催する「和田サロン」を楽しみに、学校に顔を出す。「サロン」は、お茶とお菓子付きのくつろいだ雰囲気の中、和田さんを囲んで科学について語り合うひととき。「教室とは違って、ここでは答えがない問題をああでもない、こうでもないと考えるところなんだよ」と自由なおしゃべりを促している。
「例えば、幾何学の話題として『次元』を『ほかとは関係なく動く単位』と説明したら、『意識は何次元ですか?』と質問されてびっくり。凝り固まった感覚とは無縁の柔軟な発想がすばらしい」
横並びの均一な教育以上に特化したエリート教育が今必要なのかもしれませんね。日本を良い意味で変え元気にする人材が育っていくと良いですね。
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