2010年7月31日土曜日

科学者の遊び心

60億キロの宇宙の旅から6月に帰還し、カプセルなどの展示が今月30日に始まった小惑星探査機「はやぶさ」。その「はやぶさ」の開発に携わった宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトチームに、帰還翌日の6月14日に佐賀県嬉野市嬉野町にある創業142年の老舗(しにせ)・井手酒造が、自社の酒「虎之児(とらのこ)」を祝い酒として贈っていた。そこには帰還を首を長くして待ち続けた7年越しの縁があった。
2003年5月、「はやぶさ」の打ち上げ準備が進んでいる中で、井手酒造に1枚のファクスがJAXAから流れてきた。「貴酒造が造っている『虎之児』に使われているラベルを『はやぶさ』の性能計算書(飛翔実験計画書)の表紙にしたいので了解願えないだろうか」とあった。人工衛星や探査機などを打ち上げる際、JAXAには日本酒や焼酎のラベルを計算書に「しゃれ」で表紙にする慣例があるという。極度の緊張状況に携わるロケット打ち上げ隊員をリラックスさせるためだ。
「はやぶさ」は、日本のロケット開発の父といわれる故・糸川英夫博士の名にちなんで命名された小惑星「イトカワ」に近づき、地球の軌道に近いイトカワの表面から物質を採取、再び地球に戻るのが使命。プロジェクト関係者は、「虎は千里往(い)って千里還(か)る」「虎穴に入らずんば虎児をえず」「虎の子(大切なもの)」の思いを「はやぶさ」に託そうと、酒「虎之児」を選んだという。井手酒造は申し出を即、了承した。
「虎之児」のラベル上に張られる通称山型には本来、「清酒特撰(とくせん) 原材料名 米・米こうじ・醸造アルコール・糖類」と書かれるが、届けられた計算書の表紙には「小惑星 近傍探査 イオンエンジン 比推力3000秒以上 材料名 キセノン」とあった。
また、ラベルは虎之児のロゴマークと「此(この)機宇宙翔千里」「回収は4年経(た)ってから 開栓には十分注意して下さい」の文字が本物そっくりに作られていた。当時は07年に地球に帰還し、「イトカワ」の岩石類を回収予定だったからだ。
様々な困難を乗り越え7年後に「はやぶさ」が戻ると、再び、新しいラベル使用の申し込みと「虎之児」12本の注文があった。文字は「此機宇宙翔百億里」「開封は7年過ぎてから」に変更されていた。井手酒造の井手洋子社長は「小さな酒蔵を探していただいてうれしい限りです。こちらからも『はやぶさ』への尊敬と感謝の念を込め、大吟醸酒に新しいラベルを張り、贈らせていただきました」と言う。
JAXAのプロジェクト責任者、川口淳一郎教授は「大願成就なった。虎之児は我々の決意にうってつけの酒でした」と話した。良い話ですね。科学者の遊び心が感じ取れる内容ですね。大きなプロジェクトの背後に様々なエピソードが隠されているんでしょうね。

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